私が好きなこの一本

YO-KING 噛めば噛むほど面白い まだ観てない人がうらやましい
 音楽業界でも屈指のトレッキーとして知られるアーティスト、YO-KING。トレッキーとは、'66年に誕生したSFシリーズ『スター・トレック』の熱狂的なファンのことだ。そもそもSF映画というジャンルにハマったのは、彼が11歳の時。
「僕はスターログ(70年代後期に日本でも発売されていたSF映画専門誌)世代なんですよ。『スター・ウォーズ』('77)からのSF映画ブームにどっぷり浸かってました」
 それでも当時そのブームに乗って作られた'79年公開のロバート・ワイズ監督による映画版第1作目にはあまり乗れなかったという。
「子どもにはキツかったんですよね。監督のカラーだと思うんですけど、映画の様式美みたいなところにいっちゃってて。映画だから大画面で引きで見せてドーンみたいな(笑)。でも、その次から冒険活劇になっていく。2作目の『カーンの逆襲』とかヤバイですよ。“優生人類”って何だよって(笑)」

 

 ちなみに“優生人類”とは、『スター・トレック』の世界で、20世紀の遺伝子工学に生まれた新人類のこと。この映画に登場するカーンは、この世界の歴史上の'92年(!)に起こった優生戦争と呼ばれる戦争のきっかけとなった人物という設定だ。
「60年代に作られた未来の年表を、もう現実世界が追い抜いちゃっているんですね。リアルな地球史と『スター・トレック』の地球史のふたつが存在している。そこがおもしろいんですよ。今、『スター・トレック』では何が起こっているんだろう、なんて比較しちゃったりして(笑)。もともと大河ものというか、サーガものって好きなんですよ。最初に決められた設定を、その世界観の中でいろんな人たちが頑張っているって感じが。プロットもちゃんと整合性を含めて作っているところが好きなんですよね。だから白土三平さんの「カムイ伝」も好きだったし、「ONE PIECE」もそうですよね。物語が進むにつれてろんなことが明らかにされて、第一巻に書かれていたことが後で分かったりとか。似ていますよ。『スター・トレック』でコクレーンがワープ・エンジンを開発していたって歴史が、映画8作目の『ファーストコンタクト』になる、みたいな」

 

そこから話はテレビシリーズ第6作目の『エンタープライズ』に飛び、さらにボーグというシリーズ最強と言われるキャラクターが過去に戻ったエピソードについて、と話は止まらない。それもそのはず、『スター・トレック」は映画だけで11作、テレビシリーズは6作、全700話以上を数える超大河シリーズ。熱く語りたくなるのも無理はない。
「僕が本格的にハマったのはTNG、ネクスト・ジェネレーション(テレビシリーズの2作目『新スター・トレック』)ですね。観始めたきっかけはもう覚えてないけど、ピカード船長の時のヤツです。周りにトレッキーがいたわけではなく、自分ひとりで追いかけ始めて、『ディープ・スペース・ナイン』『ヴォイジャー』『エンタープライズ』と、どんどん深みに(笑)。何と言ってもその魅力は、哲学とか宗教とか深いテーマを内包した人間ドラマ。驚くほどハードでリアルなものを1話完結で描いていく凄さ。人格的にも僕は影響されていますね、おそらく。音楽にも無意識に出ていると思いますね、『スター・トレック』の影響は。僕の個性になっちゃっているかもしれない」

 そう力説しつつ、「やっぱり本質はテレビシリーズ!」と断言する姿はまさにトレッキー!しかも映画版はまた別の楽しみ方があるらしい。
「映画であんまり考えさせられるのも、暗すぎるのもキツイし。ちゃんとエンタテインメントしていてほしい。このシリーズはそういう意味でもバランスが良いんですよ」
 '09年に作られたJ・J・エイブラムス監督の映画『スター・トレック』は、「情報量がハンパじゃない!」とその熱さに拍車がかかる。
「映画としてもジェットコースターみたいに楽しいし、その上、これまでの『スター・トレック』のおもしろさが全部詰め込まれている。滋味がある。噛めば噛むほど、おもしろいって感じで(笑)。トレッキーにはニヤリとさせるものが詰まっていて、そうじゃない人も『スター・トレック』への興味が深まるような仕上がり。ある意味、この後ろにある膨大な物語を、長い人生でこれから1個ずつ行くぞっていう覚悟を決めさせるような作品ですよね。でも、そんな人生の大事な時間を注ぎ込んでも損したなって絶対思わないはず。むしろ、まだ観ていない人がうらやましいですよ。これから観れるんだって(笑)。この映画は今までも要素を取り入れつつ、これまでの『スター・トレック』とは違うのだよって言われているような作品なので、スタートラインとしてもオススメですね。この後にまるでパラレルワールドの分岐みたいに、また新たな『スター・トレック』の歴史が生まれる予感がするので、続編も楽しみにしています」

 

取材・文:細谷美香/撮影:源賀津己

PROFILE
YO-KING
'67年、東京都生まれ。大学在学中に音楽サークルに所属し、'89年に後輩の桜井秀俊と「真心ブラザーズ」を結成。同年9月「うみ」でデビューを果たす。4月25日(水)にニュー・アルバム「Keep on travering」をリリース。
スタートレック

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STORY
1962年。音楽での成功を夢見るエフィ、ローレル、ディーナの3人は、“ドリーメッツ”というグループを結成して、新人オーディションへの挑戦を繰り返 していた。そんな彼女たちに大きな可能性を見出したのが、中古車販売会社を経営するカーティス。マネジメントを買って出た彼は、地元の人気シンガー、 ジェームス・アーリーのバックコーラスに抜擢する。彼らのパワフルなステージは全米の注目を集め、“ザ・ドリームズ”に改名してデビューしたディーナたちはスター街道を歩み始めるが……。
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