私が好きなこの一本

LiLiCO 『ドリームガールズ』はずっと残っていくミュージカル映画

はじめて『ドリームカールズ』を観たとき、試写室で思わずスタンディングオベーションをしたくなったという映画コメンテーターのL i LiCoさん。はじめて夢中になった映画は『グリース』で、幼い頃からミュージカルは大好き。歌手としての下積み経験もある彼女の心を大きく動かしたのは、“芸能界の裏側”をリアルに描写した物語だった。

 「マネージャーやプロモーターとの関係は、今も変わらないところがあると思うんですよ。芸能界って、一度足を踏み入れると、なかなか辞めることができない魅力のある世界なんですよね。それに歌唱力や実力だけでは生き延びていけない世界でもあるんです。誰かが引退したというニュースに世間が大騒ぎしたとしても、すぐにかわりの新しい人が入ってくるのが芸能界。特にこの映画の舞台になっている時代はまだ黒人差別が激しかったから、白人が真似をして出した曲の方が売れてしまったり、理不尽なこともたくさんありますよね。この映画は今も昔もある芸能界の厳しさを、はっきりと描いている映画だなと思いました」

60年代、デトロイト。エフィ、ローレル、ディーナがデトロイトで結成した女性ボーカルグループ「ドリーメッツ」。ブロードウェイの舞台をもとに、未来を夢見る彼女たちの波乱万丈のスターへの道を描き出したのは映画『シカゴ』の脚本も手がけているビル・コンドン監督だ。「ミュージカルを映画にするのは、簡単なことではないと思うんです。
たとえば『オペラ座の怪人』はとても良い映画だと私は思ったのですが、舞台を観た人に言わせると“舞台のまんまじゃん”っていう。その点、ビル・コンドン監督は歌のシーンの見せ方がすごくうまかった! それと何よりも感じたのは、この監督は人を愛してるんだなってこと。どのシーンからも、役者さんへの愛情が感じられるんです」

 

'06年のアカデミー賞では、ソウルフルなボーカルを聴かせたジェニファー・ハドソンが助演女優賞を受賞。人気オーディション番組「アメリカン・アイドル」では優勝を逃したが、努力を惜しまずにこの役をつかんだシンデレラガールに光が当たり、大きな話題を呼んだ。もちろん、ヒロインを演じたディーヴァ、ビヨンセ・ノウルズの歌声も観る者の心を揺さぶる。

 「心からの歌は、やっぱり聴く人の心にも響いてくるんです。みんなの歌には吹き替えではなくて本人たちが歌ったからこそ、感じられるパワーがありました。この映画でブレイクしたジェニファーの『And I AmTelling You I'm Not Going』、ビヨンセが歌う『Listen』。それとふたりの影に隠れてしまいがちですが、ローレルを演じたアニカ・ノニ・ロースの歌声も素晴らしいんですよ。アカデミー賞でのパフォーマンスを観たときには、彼女が一番上手なのでは? と思ったほど。映画のなかでは地味なキャラクターに合わせた声で歌っていたのかもしれないですよね。とにかく彼女たちの歌唱力は“本物”だと思います」

恋人もリードシンガーとしての立場も奪われ、クラブシンガーとなったエフィ。アイドルとしてスター街道を駆け上っていったディーナ。ともに同じ夢を抱きながらも別々の道を歩むことになったふたりの女性の生き方を、LiLiCoさんはどん
な風に受け止めたのだろうか。

 

「エフィは愛する人の子どもを妊娠して産んだのだから、そこは自分の責任だと思うんですよ。誰かにいじわるされて芸能界を去ったわけじゃない。ディーナは自分が望まないアイドル的な仕事もするようになって、それに不満を抱きはじめますよね。そういう意味では、イメージに縛られているディーナよりも、どんなに小さなクラブやバーでも自分の好きな歌を歌っているエフィの方が、私には輝いて見えました。愛する子どもがいて、愛する男を取り返そうとも思った、そういうエフィの頑張りがオーラとして出ていると思うし、彼女のハングリー精神は大好きですね。彼女たちの生き方に共通しているのは、どんなときも決して適当に生きていないってこと。私は、夢がなくてもいいんだけど、人生をなめるのはよくないと思っているんです。
“なんとかなるさ”って言葉は大嫌いです(笑)」

 ものまね番組で『ドリームガールズ』のパフォーマンスを披露したこともあり、DVDを何度も繰り返し鑑賞していると言うLiLiCoさん。「映画は映画館で観るべきだと思っているのですが、こういう素晴らしい作品は永久保存版としてDVDで残していくべきですよね。全体を通して観てもいいし、お気に入りの曲だけを聴いてみるのもいい。メイクや衣裳、インテリアも素敵なので、いろいろな楽しみ方ができると思います。『ドリームガールズ』はきっとこれから先、ずっと残っていくミュージカル映画。その時々の旬のスターたち主演でリメイクされていくんじゃないかなって思っています」

 

取材・文:細谷美香/撮影:源賀津己

PROFILE
LiLiCo
'70年、ストックホルム生まれ。日本人の母とスウェーデン人の父を持つ。TBS系情報番組「王様のブランチ」の映画コメンテーターをはじめ声優、タレント、歌手として幅広く活躍中。著書に「LiLiCoの映画的生活」(ゴマブックス)など。
ドリームガールズ

(「パラマウント100周年記念厳選20作品DVD BOX(初回生産限定)」収録作品)

STORY
1962年。音楽での成功を夢見るエフィ、ローレル、ディーナの3人は、“ドリーメッツ”というグループを結成して、新人オーディションへの挑戦を繰り返 していた。そんな彼女たちに大きな可能性を見出したのが、中古車販売会社を経営するカーティス。マネジメントを買って出た彼は、地元の人気シンガー、 ジェームス・アーリーのバックコーラスに抜擢する。彼らのパワフルなステージは全米の注目を集め、“ザ・ドリームズ”に改名してデビューしたディーナたちはスター街道を歩み始めるが……。
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